あなたは今、超高度情報化社会の中でこの恐ろしい言葉たちのターゲットにならんとしている。

はじめに

すべての詐欺は「言葉」からはじまる。

 連日のように報道され、銀行や警察が対策に力を注いでも、一向に納まる気配のない振り込め詐欺事件。
 2003年に、はじめて「オレオレ詐欺」という言葉がマスコミに登場してからというもの、その手口はますます複雑で巧妙になり、被害額も上昇の一途をたどっています。いったんはマスコミでも大々的に報じなくなり、落ち着いたかのように見えましたが、現実はまったく逆で、被害は恐ろしいほど急増しています。息子を装った「オレオレ詐欺」は昔の話。闇金融の取り締まり強化とも相まって、大規模な組織犯罪として定着し、犯罪グループの「小規模多数化」と「徹底した役割分担」が進むにつれ、銀行口座や携帯電話の売買はもちろん、騙されやすい「カモ」の個人情報を売る「名簿屋」や、詐欺のシナリオを創作する「ネタ屋」まで現れるなど、詐欺を支える裏社会のネットワークがあらゆる分野に広がっています。
 例えば、2006年には100人規模で組織化された振込詐欺グループが逮捕されています。そのグループによる被害額は約100億円で、アルバイトに大学生を雇っていたことや、暴力団との関係も判明しました。やがて2008年に入ると、年金問題や世界的な金融不安を逆手にとった、新手の振込め詐欺が急増し、被害額も劇的に高まります。2008年1月から3月までの3カ月間に、5618件の事件が起きて被害額は約78億円。税金などの「還付金」を装う手口だけでも1614件で約17億円と、昨年同時期の約5倍にも達しているのです。このまま続けば2008年度の総被害額は300億円に上るという予測もあります。しかも、他の事件と同様、この数字は氷山の一角に過ぎません。こうした現状を受けて、警視庁も本格的な対策に乗り出しました。

かつての闇金融も加わった振り込め詐欺は、いまや、警察が対策本部を設置するほどの組織犯罪となり、巨大な裏ビジネスに成長している。

 警視庁は振り込め欺を次の六種類に分類しています。

1.オレオレ詐欺
2.還付金詐欺
3.架空請求詐欺
4.融資保証詐欺
5.オレオレ恐喝
6.架空請求恐喝

 警視庁は2008年10月を「振り込め詐欺撲滅強化推進月間」に指定しました。注意をうながずポスターやウェブサイトを制作し、各市町村や銀行も広報活動に協力。そして年金振込日には、全国の銀行やコンビニエンスストアのATM(自働支払い機)に5万5000人もの警官と公安職員を配備して警戒にあたりましたが、その最中でさえ、ATMを使った数件の振り込め詐欺事件が起きました。
 狙われるのが高齢者ばかりに限らなくなったのも、昔の「オレオレ詐欺」との大きな違いです。電話やメールによる勧誘や恐喝はもちろん、インターネットの出会い系サイトやクレジットカード決済が詐欺の温床になり、コンピュータ・ウイルスなどのハイテクまで駆使して、世界じゅうの振り込め詐欺師たちがあなたを狙っているのです。しかも、いきあたりばったりの「オレオレ詐欺」とは違い、あたかも淡々と、ビジネスをするかのように、狙いを定めた相手の家族構成や勤務先、年収や資産などの個人情報を調べあげた上で、実行犯の役割分担やストーリーを綿密に練り、頃合いを見計らって一気に襲いかかる、という具合に、効率的な分業とシステム化が進んでいるのが実情です。詐欺組織の手先は、たった今、あなたのすぐ傍らに潜んでいるかもしれないのです。
 超高度情報化社会に突入しつつある今、その一方で、次々と報道される個人情報の流出事件を見れば、「自分の情報は自分で守る」しかないのは明らかです。実際の事件を解析しても、常日頃からちょっとした注意を払っておけば詐欺に遇わずに済んだのに、というケースが実に多いのです。
 それでもなぜ人は詐欺師に騙されてしまうのでしょうか?
 この疑問を解くために、さまざまな実例を解析した結論は、詐欺と出会う瞬間(ファースト・コンタクト)」が最も重要なポイントだということです。その恐怖の罠は、必ずなんらかのコミュニケーション……つまり、電話の「会話」や、メールの「言葉」ではじまります。単純な「オレオレ詐欺」でも、入念な下調べをする組織犯罪でも同じです。

必ず、すべての詐欺は「言葉」からはじまる

 これが振り込め詐欺の核心です。あなたをおとしめるのは、犯人の「言葉」を駆使した「話術」です。そして、その言葉に騙されないためにいちばん必要なのは、相手の言葉と話術を知ることなのです。
 本書では徹底的に、詐欺師たちの「弓矢の矢」ともいえる「会話」と「言葉」に注目しました。
 本書に出てくる、会話や言葉のやりとりをあらかじめ知っておけば、ある日突然振り込み詐欺に狙われた時、あなたが必ず直面する、詐欺師が仕掛けた最初の罠、言葉の罠に気づき、難を逃れることができるのです。

 第一章では、実際に起きた事件と取材を元に、そこで交わされた「生の会話」の記録を最大限活かしながら、詐欺の全貌をシミュレート(再現)しています。そこには、詐欺師たちが私たちを騙す様々な会話の手口や、騙すポイントとなる決め言葉が、はっきり描かれています。シミュレートに続けて、私たちがいつ、どの時点で、どんな会話や言葉に騙されてしまうのかという「詐欺のポイント」を解説し、具体的な対策と鉄則を示しました。
 第二章ではさらに一歩踏み込んで、最近急増する携帯メールやインターネットを使った振り込め詐欺を、実際に使われたメールの言葉を引用し、その全貌をシミュレートしています。携帯メールを使った勧誘から、オークションを利用した巧妙な手口まで、メールやインターネットに不慣れな読者でもわかりやすい解説を加え、ポイントとなる「言葉」と対策をまとめました。

 すべての詐欺に共通する「言葉」に、徹底的に注目して書かれていること。それが本書の画期的な発見と工夫であり、振り込め詐欺師の核心にせまった、唯一の本だといえる特徴なのです。

 第三章には、振り込め詐欺の基本的な情報を読みやすくまとめてあります。振り込め詐欺の歴史と変遷、詐欺集団のメンバー構成、個人情報の集め方、振り込め詐欺の「三種の神器」といわれる「携帯電話、銀行口座、名簿」のからくり、警視庁や銀行の対策と抜け穴、そして、取材で明らかになった最新の手口などです。まずは予備知識として、ここから読み始めていただくのもいいでしょう。

 第四章は、振り込み詐欺の未来予測です。今後ますます増えるだろう「ハイテク詐欺」に焦点をあてて、最新の事例を参考に、振り込め詐欺が多発する社会背景と、その未来について考察しました。

 そして第五章に、徹底的に実用面にこだわった『振り込め詐欺110番』を掲載しました。怪しい! と思ったらまず実行することや、困った時の連絡先や参考になるウェブサイトなどを、緊急時でもひと目でわかる電話帳のようにまとめました。
 時にはマスコミのニュースと連動し、次々と新しい手法が現れては消える振り込め詐欺の変遷は、世相を映す鏡だといえます。年金問題や高齢化社会、世界的な金融不安、テクノロジーの進化と個人情報、といった現代社会の流暢を踏まえながら、今すぐにでも起こるかもしれない詐欺についてポイントを指摘し、具体的な対策を明記した唯一の本を、あなたは今手にしています。
 別に構える必要はありません。最後の『110番』から眺めても、この本の中核を占めるシミュレーションから読み始めても、どこからめくるかは読者のあなた次第でかまいません。途中で難しいと思ったら、第三章の基礎知識を参考にしてください。『110番』をもっと詳しく知りたいと思ったら、シミュレーションの会話やポイントと照らし合わせて読み返してみてください。誰もが好きにページを行き来しながらフル活用できるように心がけて、この本を書きました。
 世間ではまだ、振り込め詐欺に遭うのは高齢者、と思われがちですが、それはすでに過去の話です。仕事や家事に追われながらも、健康で聡明に生きているはずのあなただからこそ、いつ狙われてもおかしくない。それが振り込め詐欺という犯罪です。
 詐欺の手口は千差万別で、定まった手口はありません。

「まさか!」と思うような、あなたの個人的な急所を、
思いがけない瞬間を狙って突いてくる。

 それが超高度情報化社会と言われる現代の「振り込め詐欺」なのです。
 そんな時代を騙されずに生き抜くための、自己防衛と対策の一助として、本書を活用していただければと願う次第です。

はじめに

第一章 振り込め詐欺シミュレーション「会話編」へ

第二章 振り込め詐欺シミュレーション「メール編」へ

恐ろしい「振り込め詐欺師」の話術。トップページへ